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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)539号 判決

控訴人(原告) 松本幸夫

訴訟代理人 木下哲雄

被控訴人(被告) 横山まつ代

訴訟代理人 相沢岩雄

主文

原判決を取り消す。

本件を長野簡易裁判所に移送する。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の控訴人に対する長野地方裁判所昭和五九年(レ)第二六号事件の和解調書記載の和解条項第二項に基づく強制執行は、これを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は原判決事実欄第二記載のとおりであり、証拠関係は原審訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

職権をもつて調査すると、原判決は次の理由により取消しを免れない。

すなわち、控訴人の本件訴えは、長野簡易裁判所昭和五六年(ハ)第一八九号事件の判決に対する控訴事件である長野地方裁判所昭和五九年(レ)第二六号事件について昭和六〇年一〇月八日成立した和解に係る請求に対する異議の訴えであるところ、民事執行法三五条三項の準用する同法三三条二項は、債務名義が和解調書である場合の請求異議訴訟の管轄裁判所について、(1) 確定判決と同一の効力を有する債務名義のうち和解(上級裁判所において成立した和解を除く。)に係るものにあつては、その和解が成立した簡易裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所(簡易裁判所において成立した和解に係る請求が筒易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)とする旨(同項二号)、(2) 確定判決と同一の効力を有する債務名義のうち同項二号に掲げるもの以外のものにあつては、第一審裁判所とする旨(同項一号)規定しており、同項二号上段括弧書き内の「上級裁判所」とは上級審の裁判所を意味するものと解するのが相当であるから、簡易裁判所の判決に対する控訴事件について第二審裁判所である地方裁判所で和解が成立した場合には、右和解に係る請求に対する異議の訴えの管轄裁判所は、同項二号所定の当該和解が成立した地方裁判所ではなく、同項一号所定の第一審裁判所である簡易裁判所であると解すべきである。

なお、記録によると、本件訴訟の訴額は九五万円とされていることが認められるが、同項一号の規定による管轄裁判所は和解に係る請求の価額の多寡にかかわりなく第一審裁判所と定められていることに徴すれば、右の事実は簡易裁判所が本件訴訟の管轄裁判所であると解することを妨げるものではない。

以上によれば、本件訴訟は長野簡易裁判所の管轄に属するものであることは明らかで、しかも右管轄は同法一九条により専属管轄とされているのであるから、原審が本件訴訟につき管轄権を有するものとして審理裁判をしたのは専属管轄の規定に違背したものといわざるを得ない。

よつて、民事訴訟法三八六条、三九〇条により原判決を取り消した上本件を長野簡易裁判所に移送することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 近藤浩武 裁判官 喜多村治雄)

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